ユージン・スミス

(・・・・・)昼夜を問わず作業がつづけられました。いちばん長く徹夜がつづいたのは、一週間でした。(・・・・)ユー ジンはといえば、一週間目にまるで大木がたおれるように眠りにおちました。仕事をしながら、そのまますーっと床にたおれて、つぎの瞬間にはもうぐうぐうと眠ってしまうのです。
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 ユージンの鼻の骨は、砲弾によってすっかり失われていました。そればかりでなく、上あごもくだけていたので、口と鼻の穴がつながってしまい、医療用の接着剤でその穴をふさいでいました。歯も入歯だったので、やわらかい食べ物しか食べられませんでした。また、日本家屋にあがるときにも、ぜったいに靴をぬぎません。背骨がきずついていたために、特別製の靴を脱いでしまうときちんと歩くことができなかったのです。
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 お酒と薬の量もたいへんなものでした。暗室作業にはいると、朝からずっと湯のみ茶碗にウイスキーをいれて飲んでいます。ウイスキーは、サントリー・レッドがお気に入りでした。その調子で一日中飲み続け、一日一本くらいは、かるく飲み干していました。
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戦争のときの傷のせいでぼろぼろになった口は、固形物をほとんどうけつけなくなっていました。ユージンが口にするものといえば、牛乳、たまご、オレンジジュース、そしてはちみつなどの流動食が中心となっていました。お酒はあいかわらず、ウイスキーを一日に一本。痛み止めの薬の量もどんどんふえていきました。

(土方正志「ユージン・スミス 楽園のあゆみ」)
ISBN:4036450301