ライオンとの約束


問い:なぜ頭髪を剃っているのか?
答え:ライオンと約束したから

昔、アフリカへキリンを探しに行った時のこと。いくら探してもキリンはいない。「もう見つからないかもなあ」と諦めかけていたら、むこうにライオンが一匹居た。とりあえずあのライオンに訊いてみよう、と思って、丁寧に尋ねてみた。けれどもライオンは答えようとしない。「おかしいなあ。ちゃんと挨拶したんだがなあ。あのライオンも大西みつぐで挨拶できないのかなあ」と思って、よくよく覗いてみたら、ライオンの口が針金でぐるぐるに縫い付けてあった。なるほど、これでは答えられない。これでは可哀想だから針金を切ってやろうと思ってニッパーをとりだしたら、がらがらがらと雷のような音がして、空に七色の大蛇が現れて、「切ってはいかん!」と怒鳴る。怖かったからこのままほっぽって逃げても良かったんだけど、ライオンもこのままでは口もきけなきゃ、ものも食べられない。放っておく訳にもいかないのでわけをきいてみた。すると虹色の大蛇が言うには、そのライオンはこともあろうに蛇をみて、たてがみがないとからかってバカにしたのだそうだ。バカにされたからと言って蛇のなにがどうなるわけでもないが、ハラが立ったし、示しもつかないので、二度とそんな口がきけないようにワイヤーでグルグルに縫い付けたのだそうだ。もっともなようだが、いくらなんもやりすぎだろう。そこで僕は大蛇にこう提案した。「なるほど。お怒りはごもっとも。でもいくらなんでもやりすぎですよ。こんな非道なことをしていては虹色の大蛇の沽券にかかわります。で、どうです、ともかくもライオンもこれで懲りて二度とそんなことはいわないでしょうから、針金は解いてやっては? え?なになに? それではつけあがるだけだ? これまたごもっとも! 実に大蛇様は配慮が深い!ではこうしましょうよ。ライオンのタテガミも丸刈りにしてしまってヘビと同じにしてしまえば、ライオンも二度とバカにしたりしないでしょう。どうです?」と提案してみた。大蛇もそうそうもののわからない奴でもなかったのでこの案を飲んでくれた。そこで僕がそのライオンにこれこれこういうことだが、納得するな?と訊いたら、涙を浮かべながら、うんうんとうなずいて納得している。そこではさみとかみそりをつかって綺麗にライオンのタテガミをそり落として、大蛇に「これで納得ですよね?」と納得させてから、ライオンの針金を切ってやった。大蛇は空に消え、ライオンの口は開き、めでたしめでたしのつもりだった。つもりだったが、このライオンが泣きついて来た。「私は納得しましたが、これでは夫に申しようがありません。どうかいっしょに来てことの次第を説明してください」と来た。なにかの親切なんてしようと思うと厄介なことだ。しかし、ここまで関わったのだから仕方ない。別に悪いことをした訳じゃない。ライオンに同行して彼女の夫のところへでむいた。しかし、この夫の牡ライオン、話が通じない。「ダメだ! なにをした? キサマなめてんのか? 生意気だ! 何様のつもりだ? 俺様が百獣の王と知って口答えしてんのか? 」と頭と性格の悪い木村伊兵衛賞作家のように威丈高で嵩にかかって威張り散らして話になりゃしない。とは言え、相手は木村伊兵衛賞作家ではなくライオンだ。怒らせると怪我だけじゃすまない。そこで穏便に提案することにした。「わかりました。じゃあこうしましょう。僕も髪の毛をそり落とします。そしてメスライオンにタテガミが生えそろうまで同じ髪型で過ごします。僕も先を急ぐ身だしそうそうこのもめ事に関わっている訳にもいかないし、それともなんですかもういちど虹色の大蛇を呼び出して牝ライオンの口を縫い付けてしまって貰った方がいいですか? 僕はそれでもかまわないんですよ?」こっちも必死だったが、牡ライオンもうだつの上がらぬ木村伊兵衛賞作家と同じで、無意味に威張り散らしてみたかっただけだったのだろう、牡ライオンもごちゃごちゃごねながらもしぶしぶ承知した。当たり前の話なんだが! まったく木村伊兵衛賞作家とか百獣の王とかは始末が悪い。そこで僕は髪を剃り落して、「これでいいですね?」と、タチの悪い木村伊兵衛賞作家のように始末の悪い牡ライオンを納得させて、アフリカを後にしたという訳。そして、いまだにライオンとの約束を守り続けている訳だ。牝ライオンのタテガミがまた生え揃ったら僕も髪を伸ばそうと思っている。



って言う話を保育園の頃の娘にしたんだけど、娘は覚えてるらしいんだよね。「なんで髪剃ってるの?」って訊かれたから、「暑かったから」とか答えたら、「保育園の時、ライオンと約束したって言ってたよ」と証言された。こどもを舐めてはいけない。