娘は、高岡の元妻実家に住んでいる。
元妻実家は、高岡駅前の旧い大きな「町家」。間口が広く奥行きも深く部屋数もかなり多かった。空き部屋を利用して、娘の祖母(=元妻の母)は、副業に駅前旅館を営業していた。
大きな家で小さな旅館。
高岡駅前「川崎旅館」。
新幹線開通に伴い旧JR高岡駅は廃止された。
そして元妻実家は、再開発にともなう「立退」(=地上げ?)で廃業し、すこし離れた場所へ引っ越してしまった。
娘も一緒に引っ越して、祖母と一緒に暮らしている。
娘は、引っ越し後も「たまさん」たちにお昼ごはんをあげに川崎旅館跡地に通っていた。
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「たまさん」の説明。
「たまさん」は、高岡駅前下関町界隈の「地域猫」。
町内の人たちにかわがられていた野良猫、何代も前から。
昭和の街には、こういう「地域猫」がいっぱいいた。
「たまさん」のお母さんも「たまさん」と呼ばれていた。
お母さん「たまさん」のお母さんも「たまさん」だった。
もちろん「たまさん」以外に何家族も代々下関長界隈をテリトリーにしている「地域猫」はいた。
何匹もいる「地域猫」の中でも「たまさん」は、下関町の人たちから可愛がられていた。
「たまさん」は、とても行儀の良い猫だったからだ。
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JR在来線の廃止に伴い、高岡駅前はすっかり寂れてしまった。
徳川時代からその地に住み続けていた元妻実家も再開発にともなう立退=地上げで引っ越しを余儀なくされた。
町内の美容院も電気屋もスナックも飲み屋もすでにない。
住民も客もいない。
荒涼とした空き地駐車場だけが広がる旧高岡駅前下関町。
それでも「たまさん」は、娘に逢いに下関町に来ていた。
娘も「たまさん」に逢いに下関町に通っていた。
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娘の声が聴きたくて、数年ぶりに娘に電話をした。
「最近、たまさん、どうしてる?」と、訊いてみた。
「たまさん、来なくなっちゃったの」と、娘は言っていた。
エサやりも、もうしていないそうだ。
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「たまさん、来なくなっちゃったの」
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その夜、たまさんの夢をみた。
夢の中で、たまさんは、どっかのイエ猫になっていた。
おばあさん猫になったたまさん、陽だまりの縁側でうつらうつらしながら、ノラ猫だった頃の事をぼんやりと思い出していた。
「昔よく遊びに行ってた旅館があったなあ。
あれはどこだったんだっけ?
旅館には女の子がいた筈。
あの子は、どうしてるんだろう?」と。
そんな夢を見た。
昼食に来た。常連客のたまさんです。
— 川崎旅館@令和2年3月26日店じまい (@kawasakiryokan) 2019年5月20日
食べる前に確認を取る行儀のいい方です。#高岡#富山#ゲストハウス#猫#1泊3000円 pic.twitter.com/Lw3tbytaDN