丸坊主の将軍と肥満児は手をつなぎ


丸坊主の将軍と肥満児は手をつなぎ、木製の昇降機に乗って建物の3階へ昇っていった。
建物は木造で、外壁はところどころ板が打ち付けてあるくらいのものだ。昇降機も「エレベーター」というにはおこがましい、木箱にロープを括って上から引っ張りあげているだけの代物。上も下も外もよく見える。
2階を過ぎた時に将軍が言った。
「・・・オレよりバカだ・・・。ちょっとみれば、すぐわかる・・・」
長身痩躯で老齢の将軍は、泥でヨレヨレになった軍服を着込んで無帽。その剃り上げた坊主頭は剥き出しで、えぐりとられたようにして左眼が無い。耳は両耳とも耳の穴が塞がってしまっていて、耳朶は木クラゲのようにちぢれている。一度腫れ上がった耳が、そのまましぼんで固まったのだろうか? 左耳はとれかけている。
将軍が「オレよりバカだ」と言ったのは、2階フロアーにいた老女のことなのだろう。
灰色っぽいシミだらけのシュミーズを着た、白頭・短髪の老女が、右手に使いさしの割り箸、左手にアルマイト製の茶碗を持って、小踊りしていた。
「ごはんがたべれる、ごばんをたべる。ごはんがたべれる、ごはんをたべる」と唱えるように歌っている。
建物の便所は、1階にあり、台所ととなりあわせている。1階の土間の、昇降機の右側が便所。ならんで台所がある。しきりはあるが、戸が無いために、ひと間に見える。どちらが便所でどちらが台所か判然としない。便所には、手前に小便用の陶製の便器があり、奥に大便用に金属バケツが置いてある。バケツの中で、糞便とへどと便所紙が入り混じっている。台所の奥に、白いタイル貼りの流し台がある。水道は無い。流しの中に糞便がよこたわっている。黒々として8の字を描き、長さ30センチ余・太さ3センチ余。流し台の前の土間に金属バケツが置いてある。バケツの中身は反吐だ。流しの中には糞便があり、土間には反吐がたまったバケツがあるので、便所と台所の区別が判然としない。
バケツの中の反吐が、老女と白痴の息子の食事だ。
老女が歌っていた「ごはんがたべれる、ごばんをたべる」の歌は、老女が息子の帰宅を喜ぶ声だった。肥満体で動作の鈍い息子は、帰宅するとすぐ台所のバケツにむかって、げーげーと吐瀉する。わきで、割り箸と茶碗を手にした老女がしゃがみこんで、息子が吐瀉し終わるのを待っている。
息子は賃仕事が終わるといつも憂鬱そうに嘆いている。
「ごはんをたべなきゃいけないの、もっとたべなきゃいけないの」
嘆きながら大量にもごもごもごもごと食べ続ける。
同僚が見かねて、「ハラふくれてるんなら喰わなくてもいいだろうが? 喰うなよ」と声をかけても、
「うううん。いけないの、ごはんをたべなきゃうんとたべなきゃ・・・」と嘆きつつ食べ物を口に押し込み続ける。給金はすべて食事代にあてられる。
(二〇〇一年十月に見た夢)