フランク・ミラー=マンガの枢機卿



http://en.wikipedia.org/wiki/Frank_Miller_%28comics%29
フランク・ミラーは、大した漫画家じゃない。
 絵はヘニャヘニャ、話はギクシャク、にも関わらず、マット・グレイニング並みにネームは多いし、読めたもんじゃない。ブツ切れで場当たり的なストーリーと余白を埋め尽くすようなト書き、窮屈なコマ割、不器用な線で顔ばっかり描いてあって、アクションのつながりなんて分かりゃしない。
  「子連れ狼小池一夫小島剛夕のファンだという話だが、なにをか言わん。「劇画村塾」へ入れ直したい。往時の「漫画アクション」なら”ボツ”だったレベルだ。ボツ劇画家の、三流漫画家だ。



が、だ。
が、21世紀初頭、唐突に、「フランク・ミラーは、偉大なマンガ作家である」、と知らされた。
 マンガ研究たちは、「手塚治虫は、漫画の神様」だとか言いふらしていたが、ちゃんちゃらおかしい。フランク・ミラーの存在を知ってしまったら、手塚治虫なぞ鎮守の森の「カミサマ」くらいのもんだ。「あー、ハイハイ、手塚様はカミサマカミサマ! パンパンッ!あ、そうだ! お賽銭投げなきゃ。十円あげて、っと。・・・なんかご利益がありますように! ・・・・・さ、団子喰いに行こ」ってくらいのカミサマだ。




この格の違いが、ひと目でわかるのが、映画「シン・シティ」と映画「どろろ」の比較だ。
 あの「どろろ」! あの映画をみれば、映画スタッフがだれひとりとして、「手塚=唯一神」だなどと思ってないことが分かってしまう! 神の手に寄る神聖なる「原作」を改変に改変を重ねて、なんの恐れもないなんてあり得るか? 「『教育勅語』を江戸弁で申しますと・・『あっしが思うにゃ、あっしらのご先祖様がぁお国をはじめなすったのは、(以下略)』」なんて、大ニッポン帝國ではあり得ないのと同じだ。「原作ハ神聖ニシテ侵スベカラズ」という原則さえ透徹し得ずにいる漫画家のどこが「神」だ。映画スタッフは、手塚のコマ割りなぞ、そもそも念頭になかっただろう。「ちょいとキャラとプロットをお借りしました! テヘ!」くらいのもんだ。畏れるも何も「神」だなんてこれっぱかりも思われてやしない。お賽銭をあげとけば、大人しくしてる八百万匹いるのうちの一匹の「カミサマ」に過ぎない蟲みたいなもんとして扱われている。
 その点、フランク・ミラーの威光は違う。さながら、唯一神と現世政治との結節点に位置する枢機卿の如くに、神聖にして厳格な、侵すべからざる絶大な権威にして象徴足り得ている。彼が現場にいるだけで、すべてが彼に従う。映画スタッフは、「映画」というメディアへの忠誠をいともあっさり放棄して、フランク・ミラーの原作にすべてを捧げ、尽くし尽くし尽くす。
 パトカーは、マンガチックに道路を飛び跳ねながら現場へ駆けつけるし、ヒーローの腕一振りでSWATたちは振りとばされるし、銃撃一発で手首はチクワ風の切り口を残して吹き飛び、傷口から吹き上げる血潮は、真っ白色だ。ヒーローは首を吊られようともその使命を全うするまでは決して死なないし、幼女愛の変態は変態であるが故に真っ黄色の肌と真っ黄色の血液という属性を帯びて見た目ではっきり”ワルモノ”と分かる。すべてが、実写的な約束事をとばして、原作マンガをに準じて無理矢理にでも映像化されている。「映画か?」という疑問が口をつくが、そんなものはどうでもいいのだろう。それが、映画だろうがなんだろうが、原作マンガに従うべきだという鉄則なのだから。
 一体、明らかな整形ミスで顔が崩れているミッキー・ロークに特殊メイクを施し、女がひとりも寄り付かない怪人役を演じさせるなんて普通できるか? 浜崎あゆみ釈由美子に、特殊メイクを施す非道な行いを想像すれば近いのではなかろうか? 然も、その行為は、「映画のため」ではなく、「原作漫画のため」なのだ!そんなひどい! そんな人非人な! ・・・・しかし、枢機卿の御為には身体髪膚コネプライドのすべてを捧げるスタッフは、その非道をごくあっさりやってのける。映画を裏切ってでも! なにしろ、枢機卿様の御為なのだから! アーメン!

  神と政治の結節点のためにだけ人は、なにもかも捨て去って残虐非道に徹することができるのだ。
 モラルも映画も世界も、枢機卿様に従う。









しかし、「シン・シティ」を観れば、「MANGA」神話も止むだろうか? 何が、世界に誇るニッポンのMANGAだ。足下から崩れてるじゃないか。いや、マンガ研究たちやマンガ研究に国際進出を援助する国際交流基金やらは、本気で鈍感でバカでパーで不勉強だから、無理か。大友克洋がMANGAを描かずに「蟲師」を撮らなきゃいけない国状をなんと心得ているのだろう? 70年代の「劇画」のレベルで行けば三流に過ぎないフランク・ミラーが、「劇画」を描き切っている時、本国のMANGAの惨状をなんと言訳するのだろう? フランク・ミラーほどに絶対服従を要求できる漫画家がひとりもいないことをなんと言い繕うというのだ?


それにしても、映画「シン・シティ」は、すごいよなあ。こういう愚行って畏れおののいてしまう。加えて、「原作漫画の完全映画化」って、技術的には十分可能なんだってことも知ってしまった。もう、「原作と映画は別物だから」とか言わせない。だって、できるんだもん。

http://en.wikipedia.org/wiki/Sin_City

Frank Miller's Sin City Volume 1: The Hard Goodbye 3rd Edition

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Sin City 2: A Dame to Kill for

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Sin City 3: The Big Fat Kill

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Sin City 4: That Yellow Bastard

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Sin City 5: Family Values

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Sin City 6: Booze, Broads, & Bullets

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Sin City 7: Hell And Back

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