若松のこの状況の読みは、まんざら間違いではなかった。事実、彼らのパレスチナ行きに先立って、一九七一年二月にフジテレビのワイドショー『３時のあなた』で司会を務めていた山口淑子は、クルーを組織してレバノン、イスラエル、エジプトを取材し、難民キャンプの実態を「中東レポート」として日本のお茶の間に紹介した。彼女はその後、足掛け三年にわたってパレスチナ問題のTV報道を続け、とりわけ三年目には日本赤軍兵士としてすでに活躍していた重信房子のインタビューに成功すると、一九七三年のテレビ大賞優秀賞を受けた。戦前から戦中にかけて李香蘭という芸名のもとに、日本の中国侵略を美化するメロドラマに主演していた経験のある山口は、戦後は本名に戻って芸能活動を続けていたが、一九六〇年代後半からは卓抜な語学力を生かし、戦争と越境の問題を報道することに強い関心を示してきた。ワイドショーの司会者としての中東行は、その一環であった。
（四方田犬彦「パレスチナ・ナウ」ISBN:4861821053）
