平間至写真賞落選作品


第11回新風舍・平間至写真賞
2007.1.11〆
本気で写真集を出版したい人の作品募集
http://www.hirama-sho.com/

平間至写真賞」に応募してみたくなっている。
平間至って知らないんだけど。
落選したら、「平間至写真賞落選作品」と帯に書いて、自費出版したい。
料金明細付きで。


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「トラブル・イズ・マイ・ビズニス」。
関川夏央谷口ジロー事件屋稼業」の主人公:深町丈太郎のキャッチ・フレーズだ。
私立探偵の「ビズニス」も「トラブル」からはじまるようだが、僕らの稼業も「トラブル」からはじまる筈だ。せっかく、藤原新也が起こしてくれた「トラブル」だ。乗らない手はない。殆ど誰も受賞者の名前を知らない「平間至写真賞」だが(平間至が何者なのかも知らないが。伊奈信男がなんなのかも知らないが)、今回は話題になる可能性がある。乗っといた方が得だろう。ギャラリーがやる賞と違って、参加費も取らない様子だし。
そういえば、藤原新也の「ビズニス」は、「金属バット殺人事件現場の家」や「深川通り魔事件:川俣軍司のブリーフ」やらといった「トラブル」と結びついていた。


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しかし、今ひとつよくわからない。
共同出版」っていう言葉からしてはじめて聞いたが、その手のシステムを使っているのは、他の写真出版社もそうだ。
直接知っているのは、冬青社。土田ヒロミの紹介で、友人が冬青社から出版した写真集は、かなりの額、写真家が負担している。精確な金額は知らない。「木村伊兵衛賞」にノミネートされ、海外でも紹介された写真集だ。増刷はない。在庫は出版社倉庫で保管されているらしいが、取り決めでは、写真家が引き取ることになっているという。どの程度、売れたのかは知らないが、大して流通していないことは確かだ。早い話が、出版当初から見込まれていた出版社の赤字分を写真家が補填したということだろう。利益は出版社へ、赤字は写真家へ。
(「売れてはいない」様子の写真集だが、優れた写真集だとは、確信している。個人的に大事に持っている。)

で、「あなたの写真集を弊社から出版しましょう。ついては資金の一部を負担してください」という話が来たら、僕なら、「詐欺じゃん」と思う。「そんなもん、紹介すんなよ。だから土田ヒロミはよう・・・」とも思う。土田ヒロミのことを芯から信用してないので。が、しかし、友人の場合は、詐欺にあった訳ではない。金を払っている本人が心の底から納得しているのだから。土田ヒロミのことも芯から尊敬しているようだし。
友人のことながら、「おめでたいよなあ」とは思う。「おめでたい」とは思うが、心地よく騙していれば、それは詐欺ではない。「結婚詐欺」と同じくに。大金を出して幸せを買っただけなのだから。

蓮實:
これもあくまでも比喩として使わせていただきますが、村上春樹の文学は「結婚詐欺」の文学なんです。(・・・・・)村上春樹の小説を好んで読む人たちは、どこかで結婚詐欺にあいたいと思っている。彼ら、彼女らは、どこかで快くだまされ、そこからしばらくは醒めたくはない人々なのです。結婚詐欺というのは、ある事態に直面した場合に、明日までに三十万円そろえてくれと、ほかの人たちなら「どきん」とするようなことを涼しい顔で言う。しかし、だまされたいと思っている人たちはそれを何とか実行してしまう。今、日本には、結婚詐欺にだまされたいと思っている人たちばっかりいる。
(・・・・・・・・・・・・)
日本が陥っている結婚詐欺症候群は、どこかで村上春樹の小説の読者の心理と通じている。何となくだまされたい。後で大体怒るわけですが、怒るまでに時間がかかるので、次々に新作を発表できる。結婚詐欺症候群は現在の日本文学をかなり疲弊させているわけですが、これは実は世界のどこでも同じです。よく売れる本は、大体結婚詐欺なんです。映画作家もそうです。何となくこの人かわいそう、肩入れしなければいけないと思わせていまうような人がいる。
(2002年10月16日、東大教養学部でのシンポジウム「文学ルネッサンスをめざして―――創作・批評・研究のフロンティア」/蓮實重彦「スポーツ批評宣言」ISBN:479176109X


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以前、別の友人から(この友人も最近写真集を出版した)、「平凡社とかもそういうシステムなんだって」と聞いたことがある。きっとどこも「共同出版」という自費出版なのだろう思っている。
不思議なのは、この業界に長い藤原新也が、よその出版社の有り様を知らない訳がないだろうということだ。
にも関わらず、なんで「新風舍」について?
新興企業が善人ぶって商売してるのが気にいらなかった、と考えるのが、真っ当だろう。団塊のじじいが高校生のガキにむかつくのと同様に。
鬱陶しいじじいだ。

付記:12月2日、藤原新也のブログを覗いたら、「新風舍を追いつめる気はない」とある。「事例が揃ったところで、自分なりの評を書く」とも。喰えない奴。でも、ある種、実に世慣れた正しいあり方。冒険はしてみたいが、愚は犯さないといったところか? さらに鬱陶しさが増す。やなじじいだ。)


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「文学界」「新潮」等の文芸誌を読むと、自費出版社の広告ばかりが出ている。「出版」=「自費出版」の時代に戻ったのだと認識した方が良さそうだ。自費出版自体、かなり安く出版できるようになっているらしいし。
見積もりをとった訳ではないが、噂では、藤原新也が言ってるようなぺらぺらの冊子ならば、30万くらいで作れるらしい(藤原新也は、80万と書いているが)。
普通の重々しい写真集だと、もうちょっとかかる。
「deja-vu 930110 No11」ISBN:4309903312中川右介「売れない写真集をさらに50冊出版するための方法――IPCの失敗を生かして」を読むと、写真集の予算として「500部=300万」という数字を出している。
内訳は、著者印税=10%、印刷・製本代=30%、出版社の粗利=25%、取次(問屋)マージン=10%、書店マージン=25%。
印刷・製本するだけなら、300万×30%=90万。「写真新世紀」の賞金が入れば、写真集の印刷・製本は可能な訳だ。93年当時の数字だから、もっと安くなっていると思って間違いない。


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渡部―――ところで、「若さ」を売りにできない年齢の人は、ではどうしたらいいんでしょうか?
絓―――「歳とって自己表現」じゃあバカっぽいからね。そのあとでホンモノになるための時間もないし。
渡部―――にもかかわらず、いい年して「自己表現」したい人はたくさんいる。そこらに、さっきいったもうひとつの極として、ここ10年で膨大な利益をあげている「自費出版」会社がつけこむわけです。われわれの本を読んで作家になりといと思う人に強くいっておきたいのですが、あれは詐欺同然ですよ。
絓―――詐欺にきまっている(笑)。ただ、確信的に詐欺にひっかかりたいというのもいるんだよ。
(絓秀実/渡部直己「新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド」ISBN:4872338898

老若を問わず、確信的に詐欺にひっかかりたい奴は放っておけばいい。騙されるのがイヤな奴が、新風舍の「詐欺同然」にひっかかっているとも考えにくい。
いや、新風舍のビジネスが「詐欺同然」であるなら、そもそも「写真」やら「美術」やらは、業界全体が「詐欺同然」として成立している節はある。
賃貸ギャラリーのシステムなんてどう考えても作家が利益をあげられるようなシステムにはなっていない。作品が売れたところで、ギャラリーのマージンが50%なんだよ? なんでなの???
制作費と場代が作家持ちで・・・ってことは、店舗借りて商売すると、売り上げの50%を不動産管理会社が持って行くようなもんだ、家賃の他に。


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版元が無名の著者(というのが失礼であれば、通常の企画出版として本を出すのが厳しい著者と言い換えます)と契約をして本を出すこと、すなわち自費出版については、さほど問題なかろうと思います。厳しい言い方かもしれませんが、版元が法外な値段をふっかけてきたのかどうかは、相場を調べればわかることでしょう。「相場を調べる」といっても、調べる方法がわからないという著者もいるかもしれません。が、胡散臭い営業マンが提示する見積を見て、「本を出すのに、これほど金がかかるのか……」と思ったらすでに赤信号であり、その時点で誰かに相談すべきことなのだと思います。
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協力出版の問題点として議論すべきは、出版に要する費用のうち広告・宣伝・販促費を、ほんとうに版元が負担しているのかどうか、という点に集約されると思われます。だって、弊社であっても上記の三つのハードルを苦悶しながらクリヤーし、そのうえで本を出し、毎回、その本の広告・宣伝・販促には四苦八苦しているのです。もし多くの協力出版契約で、「初版制作費を著者が負担すること」と、企画段階の「三つのハードルをクリヤーするということ」が、バーターになっているのだとすれば、そうやってつくられた本の広告・宣伝・販促をおこなう営業さんは、多くの難問を抱え込むことになることは、簡単に想像がつきます。
双風舎協力出版のこと、新風舎のこと」
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20061124

シビアな正論だろう。


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丹道夫「らせん階段一代記」講談社サービスセンター ISBN:4876017530

そういえば、最近気になっている自費出版本に「富士そば」社長の自伝がある。「富士そぼ」各店舗で扱っているらしいが、今ひとつ勇気が出なくて買えない。東海林さだおが帯を書いてるのも気になる。社長作詞の演歌CDとかも扱っているらしい。CDも「共同出版」形式なのだろうか? 「本」「CD」ってものがそういうものに変質しつつあるのは、間違いない気がする。流通する価値のあるものは、webから勝手に流れていく気がするし。


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参照:
藤原新也 ブログ http://www.fujiwarashinya.com/talk/index.php
第11回新風舍・平間至写真賞 http://www.hirama-sho.com/
関川夏央谷口ジロー事件屋稼業ISBN:4575934356
藤原新也「東京漂流」ISBN:4022643188
蓮實重彦「スポーツ批評宣言」ISBN:479176109X
中川右介「売れない写真集をさらに50冊出版するための方法――IPCの失敗を生かして」/「deja-vu 930110 No11」ISBN:4309903312
絓秀実/渡部直己「新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド」ISBN:4872338898
双風舎協力出版のこと、新風舎のこと」http://d.hatena.ne.jp/lelele/20061124
丹道夫「らせん階段一代記」講談社サービスセンター ISBN:4876017530