ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」十九章



ベンヤミン卒読「複製技術時代の芸術作品」レジュメ


十九章


語義)
プロレタリア:【proletariat】自らの労働力をブルジョアに売って生計を立てる者→賃金労働者

耽美主義:(たんびしゅぎ、aestheticism・唯美主義、審美主義とも)は、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。これを是とする風潮は19世紀後半、フランス・イギリスを中心に起こり、生活を芸術化して官能の享楽を求めた。1860年頃に始まり、作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にある、とする立場である。

ダンヌンツィオ:
ガブリエーレ・ダンヌンツィオ(Gabriele D'Annunzio, 1863年3月12日 - 1938年3月1日)はイタリアの詩人、作家、劇作家。ファシスト運動の先駆とも言える政治的活動を行ったことで有名。なお日本ではダヌンツィオ、ダンヌンチオ、ダヌンチオとも表記する。本名はガエターノ・ラパニェッタ(Gaetano Rapagnetta)。

デカダンス:decadence(仏)「頽廃」「堕落」の意。19世紀末仏を中心に現れた文芸の一傾向。虚無的耽美的で、病的怪奇的なものを好む。ボードレールを先駆に、ヴェルレーヌランボー、英のワイルドなどに代表される。

マリネッティ
フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ(Filippo Tommaso Marinetti; 1876年12月22日 - 1944年12月2日)は、イタリア未来派の詩人、作家、批評家、未来派のオーガナイザー。

未来派
(みらいは、Futurismo(伊)、Futurism, フトゥリズモ、フューチャリズム)とは、過去の芸術の徹底破壊と、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開されたが、1920年代からは、イタリア・ファシズムに受け入れられ[1]、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」として賛美した。1909年にイタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ (Filippo Tommaso Marinetti; 1876-1944)によって起草された「未来主義創立宣言」がその発端である。よりセンセーショナルにするため前世紀の有名な共産主義者宣言に倣い、題名には「宣言」(Manifesto)が使われた。内容は前年に出版されたジョルジュ・ソレルの「暴力論」に影響を受けており、あらゆる破壊的な行動を讚美する非常に過激なものだった。

シュヴァービング:Schwabing is a borough in the northern part of Munich, the capital of the German state of Bavaria.
Schwabing used to be famous as Munich's bohemian quarter and is still popular among tourists and locals for its collection of bars, clubs, and restaurants. Another popular attraction is the Englischer Garten, or English Garden, one of the world's largest public parks.
Since Munich's largest universities, Ludwigs-Maximilians-Universität and the Technical University of Munich can be found in nearby Maxvorstadt, there is a lot of student activity on and around Leopoldstraße.
A student housing area called "Studentenstadt"(lit. "student city") can also be found in northern Schwabing.
「有名なミュンヘン大学は、町の北部にある。その手前のシュヴァービングは、若者たちで賑わう地区。飲食店も多い」→大学近辺の盛り場で、芸術家が集まった場所ってことかな? レーニンも住んでたことがあるらしい。ボヘミアンの溜まり場? 68年の新宿みたいな場所か?

一瞥:流し目に見ること。ちら見。
確乎:確かなさま。しっかりして動かぬさま。
拓く:ひらく
捌く:さばく:仕分けること
ホメロス:『イリアス』『オデュッセイア』の著者



最終稿でこの章は、「あとがき」になっている。従って、「一章」を「序」とするならば、「十九章」が対を成す「結」であると考えるべきか

1)
要約)

現代人のプロレタリア化=大衆の組織化の進行

同じ事態のふたつの側面である。

この新しく生まれた
「プロレタリア大衆」→所有関係の廃絶を目指している

しかし
ファシズム」→所有関係には手を触れずに、大衆を組織しようとしている。

その際、
ファシズム」は、「権利」ではなく、「表現」の機会を与えようとする。

所有関係を変革する「権利」を持つ「大衆」に対して、
所有関係は保持しつつ「表現」をさせようとする。

理の当然として、
ファシズムは、「政治の耽美主義」へと行き着く。


ダヌンツィオとともにデカダンス
マリネッティとともに未来派
ヒトラーとともにシュヴァービングの伝統が
政治の中に入り込んだ。



2)
要約)
政治の耽美主義

戦争に於いてその頂点に達する。

どういうことか?
①(政治の側面からは、)
所有関係を維持したまま、大衆を動員できる。
②(技術の側面からは、)
所有関係を維持しながら、技術手段の総体を動員できる。

マリネッティによる「戦争は美しい」という主張の引用)




3)
要約)
(「戦争の美学」に対する「弁証法的思想家」(=マルクス主義)の立場からの反駁部分)

生産力の自然な利用が、「所有関係」によって邪魔される

技術的補助手段やテンポや動力源が、不自然な利用へ駆り立てられる

その不自然な利用の場が、「戦争」である。

破壊に破壊を重ねる「戦争」

①社会がまだ技術を充分に使いこなせてないこと。
②技術もまだ未熟であり、社会の基本的諸力を捌けずにいること。

証拠立てている。


帝国主義戦争の(残酷極まる)諸特徴

①巨大な生産手段と、②生産過程に於けるその手段の不完全な利用との間の矛盾

その矛盾とは?=「失業」と「販路不足」

帝国主義戦争は、技術の叛乱である。

社会が、技術からの要求に対して、「自然な資源」をあてがわなかったので叛乱を起こした。

叛乱を起こして、「人的資源」を取り立てている。

技術は、
電力の代わりに、軍隊という形で人力を
飛行機の往来の代わりに、弾丸の往来を
毒ガス戦争に於いて、新たな形でアウラを払拭する手段を手中に。



4)
要約)
「芸術ヨ生マレヨ―――世界ハ滅ブトモ」とファシズムは言う。

マリネッティの主張する「技術によって変えられた知覚」を戦争によって芸術的に満足させるつもり。

これは、「芸術のための芸術」の完成である。

ギリシア時代のホメロス
人類は、オリンポスの神々の見せ物の対象。

②今や:
自己自身の見せ物の対象となってしまった。

人類の自己疎外

自身の絶滅を美的な享楽として体験できるまでになっている。

ファシズムが押し進める「政治の耽美主義」はここまで来ている。

コミュニズムは、「芸術の政治化」をもって答えることだろう。
(終わり)