教育は搾取に対するセーフティ・ネットです


新俗物主義」より

教育とは何でしょう。
 こう言っておいて何ですが、まずは、教育を受けたということが何を意味しないか、ということから考えてみましょう。教育を受けたということは、免許や学位を集めるかたわら、現状に疑問を差し挟まないようにする姿勢を学ぶのではありません。また、個々人の偏見から抜け出さないようにする姿勢を学ぶのでもありません。私にとって、本当の教育とは、人を研鑽と自律の道(the path of evolution and empowerment)へと送り出すものです。私たちはたくさんの科目を勉強しますが、時が経つにつれて大体は忘れてしまいます。しかし学んだ後に残るもの、残るべきものが重要なのです。それは、今までの到達点から更に先へと進もうとする態度(the need to stretch the boundaries)、新しいことを試みながら勘所をきちんと押さえようとする態度(the need to try and find equilibrium)です。例えば、良くバランスの取れた人(a well-rounded personality)と聞けば、XやYやZの専門を学んだ人というのではなく、ある種の心構えと教養を持った人を思いうかべるでしょう。
 最後に強調します。教育がなすべきことは、私たちが持っている学びへの情熱に火をつけることです。ええ、貧乏の重みで足がぐらついているときに、教育のような問題について考えるのは難しいです。貧困に立ち向かうのにお金が必要なのは言うまでもありません。ですがその上で、金銭的な支援は常に仕事(work)と結びついていなければなりません。そうでなかったら、それは自尊心をむしばみ、ひいては単に大勢の依存者を生みだすだけになってしまうことでしょう。ただし、お金と仕事を結びつけることが重要なのと同じように、教育で心を豊かにすることもまた必要なのです。ですから、教育は実際に私たちの能力を伸ばし、自律した社会を作り出すのです。それは、正しいことと間違っていることとを区別できる人と社会です。教育は、私たちが持っている想像力を刺激します。私の場合、教育は先へつながる機会への扉を開いてくれました。教育は搾取に対するセーフティ・ネットです。教育をうけた男/女は、より良い生活を送るため、より良い市民であろうと努めるために、学んだ成果を生かすことができるでしょう。見聞を広めた人は、広めたぶん難しい問題に取り組んでいくことでしょう。そして彼らは、子どもたちがより良い機会を得られるよう取り計らうことでしょう。そう、かつて私の曾祖母がそうしたように。
出典:インドの新聞『ザ・ヒンドゥー(The Hindu)』2009年3月9日付
http://www.thehindu.com/mp/2009/03/09/stories/2009030950160100.htm

http://d.hatena.ne.jp/sexmachinegunmu/20090310



なるほど。半端な教師として活動した数年を思い浮かべるにつけ、このくらいに考えていて貰えるとこっちもありがたい。「それなら、教育活動できてたかもしれない」と居直れるから。
ただ、学生だった頃の想い出を掘り返すと、これらの信条を教師に掲げられると大変に迷惑だった。「よみかきそろばん! できなきゃ話にならん! 必要最低限のことを叩き込むのが教育だ」とばかりに、システマティックにがしがし詰め込んでくれた方がありがたい。いや、教壇に立った経験から言えば、この「効率的に詰め込む」「なおかつ忘れさせない」ための手間ひまって、たいへんなことなのですよ、実に。
中高予備校大学、どこでも「ダメ教師」と「良い先生」とは、はっきり分かれた。実際やってみてわかったのは、「ああ、仕込みの質と量がまるで違ったんだ」ということ。寿司屋なんかと同じで、学生の前での工程なぞいちばん最後の最後の詰めの部分に過ぎない。そこまでの仕入れやら仕込みやらがともかく大変な作業量で、ほぼその事前の作業の質と量で現場の成り行きが決まってしまう。仕入れ仕込みがきっちりできていてはじめて相手にあわせた当意即妙な対応もようやく可能になる。


嘗て学生だった人が「教育は搾取に対するセーフティ・ネット」と想定するのは、良い事だろうし、またその通りだと思いたい。
しかし、やはり「教育産業」に関わっている人間たちに、そう考えてもらっては困る。「なぜ『源氏物語』くらい読めんのだ? 高校の時におしえただろうが!」と四十過ぎの教え子を前にしてでも説教できるくらいの気概は必要だろう。


追記
従って、東京綜合写真専門学校の卒業生は、全員、確実に、ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」を読解理解している。間違いない。教えたから。



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