ハンナナ捕物帳

「おい、素直に何もかも云っちまえ」と、半七は彼の男を睨むように視た。
(・・・・・・・)
飛んだ林屋正蔵の怪談で巧く世間を誤魔化そうとしたんだろう。それで世の中が無事息災で通って行かれりゃあ、闇夜にぶら提灯は要らねえ理窟だが、どうもそうばかりは行かねえ。さあ、恐れ入って真っ直ぐになんでも吐き出してしまえ。ええ、おちついているな。脂(やに)を嘗(な)めさせられた蛇のように往生ぎわが悪いと、もう御慈悲をかけちゃあいられねえ。さあ申し立てろ。江戸じゅうの黄蘗(きはだ)を一度にしゃぶらせられた訳ではあるめえし、口の利かれねえ筈はねえ。飯を食う時のように大きい口をあいて云え。野郎、わかったか。悪く片付けていやあがると引っぱたくぞ

岡本綺堂「半七捕物帳/お化け師匠」1917



「半七捕物帳/お化け師匠」
作者:岡本 綺堂
ナレーター:川本 知枝
Copyright:アイ文庫
収録時間:58分

林家正蔵は、江戸噺家名跡
1811年(文化8年)初代から4代目までは林屋正藏1888年明治21年)5代目から林家正蔵となった。
初代
1781年生まれ。林家の始祖。怪談噺の元祖と言われ、「怪談の正蔵」の異名を取った。著作も『升おとし』『太鼓の林』など、多数ある。なお、始めは「林家」ではなく「林屋」と名乗っていた。 1842年6月5日没。享年62。

林家正蔵-Wikipedia