億千万匹のねこ


(「ねこあつめ」やらネコ屋敷やらビーグル屋敷やらが話題に昇る今日この頃、とっても教訓深い絵本だと思うんだけど、みんな知らないみたいなんで、翻訳してみる。ちゃんとした翻訳は、この道の先駆者:石井桃子さんによる名訳が岩波書店から出ている。ちゃんとした翻訳が読みたい人はこっちを買いましょう。どうしても買うのがイヤな人は、気の効いた図書館ならどこでも置いてあると思うので探せばすぐにあります。原文は、webで読めるし。)

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昔々あるところに爺さんと婆さんが暮らしていました。2人はガーデニングの行き届いたナイスでクリーンな庭付き一軒家(ローン完済)に住んでいました。返済ローンもないし、ガーデニングの行き届いた庭付き一軒家に暮らしているくせに、2人はなぜかとても不幸でした。とてもとても不幸でした。なぜなら、2人とも後期高齢者で、他に年若い家族親族もなく、元気に訪ねてくる友人知人もなく、老老介護に怯えながら孤立感を募らせて生活していたからです。たった二人で孤立しながらじわじわと年老いて死んで行くためだけに生き延びるのは、それはそれは寂しいものでした。

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孤独な年寄(特に女性)にありがちなことですが、この婆さんもたいへんに愚痴っぽい人でした。いつも何か不満を抱えて、ぐちぐちぐちぐち愚痴ばかり垂れていました。
婆さんの近頃の愚痴は、もっぱら猫でした。「猫が飼いたい」「かわいい子猫がいればねえ」「もふもふでかわいいこ猫が一匹欲しい!」「 嗚呼、猫くらいいてもいいのに」「わたしは猫すら飼えない!」といつもいつもいつもいつもなにかとういうとは、「猫が飼いたい」と愚痴っていました。
「猫? 猫だな? わかったわかったわかったわかったわかったわかった!わかったから! 猫をなんとかすればいいんだな?」
婆さんの執拗極まる愚痴に耐えかねた爺さんは、ある日、猫を探しに出かけることにしました。
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立派な啖呵を切ってしまった手前仕方ありません。爺さんはそこら中をさがしてまわりました。山を越え谷を渡り、あちこちほうぼうとにかくめくらめっぽうあてもなく歩いて歩いて歩いて歩き回って、とうとう猫でびっしり埋め尽くされた丘陵に行き着きました!(註:きわめてウソ臭いですが。そういう場所があったんでしょう)
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こっちもあっちもねこねこねこ、そっちもむこうもねこねここねこ、ねこねこねこねこねこそこいら中ねこ、視界にはねこしか入らない程に一面のねこ。とにかくねことこねこばかり!その数、なん百匹、なん千匹、なん万匹ともつきませんでした。億千万匹のねこです!
(註:いや、爺さんは、そう証言したんですよ。でも、まあせいぜい数百? いや数十匹でしょう)
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「ワーオ!」と爺さんは興奮して叫びました。「こりゃいい!よしよしこの中でサイコーにプリティーな子をうちの子にしよう! ナイスなわが家に相応しいサイコーにプリティーな子をな!」 そう言うとと爺さんは、シロねこをだきあげました。

爺さんはシロねこを連れて帰ることしました。でも、ふと脇に目をやると、シロねこよりかわいいシロクロがいました。そこで爺さんは、このシロクロも連れて帰って「うちの子」にすることにしました。

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シロとシロクロを連れて帰ろうとして、爺さんは、グレーねこに目が止まってしまいました。このねこがまた前の2匹と同じくらいかわいい!……「これは連れて帰ってやるしかないな」 と、このねこも連れて帰ることにしました。

シロねことシロクロねことグレーねこを抱いて、爺さんは、角を曲がりました。角を曲がったところで、今度は、とってもラブリーなねこを見つけてしまいました。シロとシロクロとグレーは、3匹ともプリティなねこでしたが、このねこはラブリーでした。ラブリーでラブリーでどうしようかと思う程にラブリーでした。このねこも連れて帰ることにしました。即決でした。

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シロとシロクロとグレーとラブリー(模様不詳)を連れて帰ろうとして、爺さん、今度はクロねこを見つけてしまいました。一点の斑もない、ビューティフルなクロねこでした。
「『黒猫は縁起が良い』っていうからな...」と、このクロねこも連れて帰ることにしました。

シロとシロクロとグレーとラブリー(模様不詳)とクロを連れて帰ろうとして、今度はチャトラに行き当たりました。ブラウンとイエローがキレイなストライプになったベイビー・タイガーです。
「こういうシンプルなのもアリだなあ...」と呟くと、爺さん、このねこも連れて帰ることにしました。
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あっちを見てもかわいいねこ、こっちを見ればきれいなねこ、そっちを見たら珍しいねこ...抱きかかえ切れない程にねこをかかえて、爺さん、頭がパーになってしまいました。
「なん匹かだけうちの子にするなんてできない! みんなみんなプリティでラブリーでビューティフルで...みんなみんな特別なオンリーワンなんだ!選べっこない!絶対ムリ!....そうだ!みんな連れて帰ってみんなうちの子にしよう!」と、全部のねこをうちへ連れて帰ることにしました。視界を埋め尽くすねこを一匹残らず全部です!
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爺さんは、山を越え谷を渡りあちこちほうぼう歩いて歩いて歩いて歩いて、婆さんの待つ庭付き一軒屋へ帰ることにしました。そして、なん百、なん千、なん万...億千万匹のねこがじいさんの後からついて行きました。

「ひとりの老人とねこの大群の大移動」。それは頗る珍奇な情景でした。
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つづく


100まんびきのねこ (世界傑作絵本シリーズ)

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