1988年の雁屋哲


「オレのまんが道」(取材・文 根岸康雄)1989年小学館刊行より。
初出は、週刊少年サンデー1988年 第43号

 えい、こりゃもう絶対にまんがになりそうもない、メチャクチャなの書いてやれって、少年刑務所から毎日学校に通うヤツの話を書いたわけ。
――それが大ヒット作「男組」であった。連載開始は'74年1月。
 あれを見て、”戸塚(本名)、おまえまだ東大闘争やってのか!?”と友だちから電話があった、それに尽きるね。
――先生は、東大闘争にかかわって、それが自分の生き方に影響を及ぼしたと言うのだ。
 権力に圧迫された場合、ふつうの人間でも立ち上がんなくちゃいけないよと、これが「男組」のテーマです。
 その中で、友情とか愛情とかいうものに主人公たちは義理を通していく。

――「美味しんぼ」も結局、言わんとすることは「男組」と同じなんだと、先生は語尾を強めた。
 戸塚、まだ東大闘争やってるな、と友だちからまた電話があったけど、個人の尊厳を守るために、絶対にがんばらなくちゃいけないというのがテーマですよ。
――圧迫に立ち上がり、個人の尊厳を守る。「男組」にしろ、「美味しんぼ」にしろ、先生の究極を目ざす創作姿勢に変わりはない。が、真の自由を追求するあまり、あれ食べちゃイカン、これもダメと、かえって不自由になってしまう気もするのだが。

 キミねえ、そこが自己開放を目ざすオレと、怠惰なキミとの違いだよ。自己を開放するためには、ものすごいエネルギーが必要なんだ。たとえば、大企業

の金儲け優先の論理で、食品添加物まみれの食い物が氾濫している。単なる怠惰で、それをバクバク食べるより、危険な食い物は食わない、大企業の食い物の支配と戦っちゃおう。自分が食べる安全な食べ物は、自分で選ぼう。そのために不自由もする。
 オレのは、究極の自由を追求する闘いのまんがなんだよ。
――「男組」は権力と戦う外面的な世界だという。「美味しんぼ」は肉体にかかわる食い物の話だという。
(以下略)