「さようならアルルカン」から「太郎冠者恋物語」へ


山口昌男「学問の春」を読む。


「ハーレクイン・ロマンス」の「ハーレクイン」って、フランス語の「アルルカン=arlequin」と同じ言葉なのだそうだ。知らなかった。「アルルカン」は、イタリアのコメーディア・デラルテの「アルレッキーノ」と同じ言葉。


アルレッキーノ」は、日本で言えば、狂言の「太郎冠者」にあたるキャラだ。
とすれば、だ。
「ハーレクイン・ロマンス」を徹底日本語訳するならば、「太郎冠者恋物語」ということになる。

氷室冴子の処女短編集は、「さようならアルルカン」とタイトルされていた。
つまりは「さようならハーレクイン」が氷室冴子の出発点だったということだろう。
氷室の少女小説は、ハーレクインな展開(「あなたが探していた愛は、きっとここにある」「恋は、本屋さんに売っている」を謳ったありえない理想的恋愛を描いた北米の翻訳小説)から切断したところから「少女小説」をはじまめようとしていたのかもしれない。
そして、ハーレクイン・ロマンスから離れた氷室の少女小説の到達点は、おっちょこちょいで道化めいた女子たちが日常生活の中で繰り広げるどたばたどたどたした喜劇たる「ジャパネスク」やら「クララ白書」やらだったことになる。
いわば、「さようならハーレクイン」をテーゼに出発して「太郎冠者恋物語」に到達したのが、氷室冴子だったのだろう。



新書479学問の春 (平凡社新書)

新書479学問の春 (平凡社新書)

さようならアルルカン (集英社文庫―コバルトシリーズ 52B)

さようならアルルカン (集英社文庫―コバルトシリーズ 52B)