金を拾った噺、金を落とした噺



財布をなくした。
キャッシュカードとクレジットカードを止めて、交番に紛失届けを出した。
家に戻って、どうやらタクシー降車際に落としたとしか思えなくなって、ズボンのポケットの中に固まっていたレシートをたよりに電話してみた。
財布はタクシー会社にあった。財布はあったが、現金は千円残して全部抜かれていた。
世の中、こんなもんか?
五、六万入ってた筈。四万くらい持って、荻窪「アラジン」でパチンコして、三千円で三万いくらになって、「これだけ勝ったんだから映画でも観に行こう」と歌舞伎町に出て、「天使と悪魔」見て、串カツ「龍馬」で呑んで、タクシー乗って帰って来た。運転手、なんかやな奴だった。 タクシー代払ったから、あのあとポケットに入れ損ねたのか。
タクシーなんぞ使うもんじゃない。 前もケータイ落としたもんな。


おとなしくねようかと思ったけど、五、六万抜かれたかと思うと、面白くないので、酒買って来て呑んだ。
iPodで、落語聞きながら。
こういう時に聴くのは、立川流しかない。
若い頃の談志の「芝浜」と、談春の「文七元結」。
金を拾った話と、金を落とした話。
「芝浜」も誰か財布を落とした奴がいるんだよねえ。四十二両落としたそいつは吾妻橋から身を投げて死んでるかもしれない。
文七も金を落とした場所が、東京無線グループ練馬交通車番739の車内だったら、財布は残って五十両は消えていたのか。