過剰自粛の末に


グーグルブック検索反対騒ぎのことを考えていて、91年頃の講演で内記稔夫さんが「貸本業は自滅したのではなく、公立図書館に潰されたのだ」と語っていたのを、思い出した。公立図書館の蔵書は、殆ど町の貸本屋と重複するものであった為、顧客を奪われ、貸本業は一気に衰退したらしい。貸本業者の組合で「民業圧迫だろう?!」と詰め寄ったが、一切相手にされず、あろうことか転業を薦めらる始末だったそうだ。
五十年前に貸本業を壊滅に追い込んだ「図書館」というシステムが、高速スキャニングやweb等の技術を従えてグローバリズムに後押され無尽蔵に巨大化し、自堕落に弛緩した出版業界へ膺懲の鉄槌を下そうとしている。


貸本業末期の話をしている資料がないかと思って、webを見渡したら、ちょっと面白いインタビューに行き当たった。

―昔のマンガの良い部分を今に伝えるにはどうすればよろしいでしょうか?
内記稔夫『過剰自粛について考えること』じゃないかと思います。今のマンガに元気がないとすれば、それは作者の才能不足ではなく差別の問題や禁止用語・表現の問題を画一的に拘束しすぎるのが原因だと思いますね。文脈や時代背景を考察して柔軟に対応すればもうすこし表現の幅は広がるのにねぇ。編集者が表現の幅が狭めてどうするんですか。
―であるのなら、比較的自由な表現ができる同人誌には失われた元気があるのでしょうか?
内記稔夫そうですね。だから盛んなんじゃないかと思いますよ。

現代マンガ図書館 内記稔夫インタビュー)
http://www9.plala.or.jp/epitaph/manga.html


このインタビューが、2002年頃か? 最近のマンガ出版部数の激減を知るにつけ、結局マンガ関係者は「過剰自粛について考えること」をせず、対策もとらず、亡びることを選んだということだろう。まあ、そういう選択をしそうな連中がやってるよね。
21世紀の命運をマンガに託していたニッポン出版業界。「過剰自粛」に寄って内側からくずおれようとしていたところへ、グーグルブック検索が外から押し迫って来た訳か。
なんにしろ、先はなさそうだな。