これより悲しくは考えていない

きびしい調子のものよりも何か優しい非常に愉快なものの方がモーヴの想い出には適当なような気がしたのだ。
『死人を死んだと思うまい
 生ける命のあるかぎり
 死人は生き、死人は生きてゆくんだ』
僕はこんな風に感じている、これより悲しくは考えていない。

ゴッホの手紙(テオドル宛)」第472信 ISBN:4003355326



大江健三郎の短編に引用されていたのを読んだのは、高校生の頃。なんて小説だったかはまるでおぼえていない。訳文はこれではなかった。「死者を死せりと思うことなかれ/生ける者あるうち/死者は生きん 死者は生きん」だったと記憶している。
「優しく愉快なものの方へ」。
「悲しくは考えない」。
死者を生かす方途として心に留めている。