道頓堀端の天啓

 もう二十年も昔の事を、どういう風に思い出したらよいかわからないのであるが、僕の乱脈な放浪時代の或る冬の夜、大阪の道頓堀をうろついていた時、突然、このト短調シンフォニイの有名なテエマが頭の中で鳴ったのである。

小林秀雄「モオツァルト」1946 ISBN:4101007047


 ご存知、批評の神様:小林秀雄「モオツァルト」の一節。
 1920年代の道頓堀で感動に震えた小林秀雄青年は、この直後、百貨店(大丸?)に飛び込みモーツァルトのレコードを試聴する。
 ふむ。


 さて、21世紀の小林秀雄的青年が、道頓堀端のグリコネオン、キリンプラザ大阪、かに道楽本店、づぼらやくいだおれ等の光景の中で、天啓に撃たれるとしたら、映像であって欲しい。

僕の乱脈な放浪時代の或る冬の夜、大阪の道頓堀をうろついていた時、突然、カラヴァッジョの映像が頭の中にきらめいたのである。

余人には理解できない感動に撃ち震えつつ青年は、ネット・カフェに飛び込み、検索をかける。
しかし、YouTubeデレク・ジャーマンのカラヴァッジョを見た時、その感動は失われていた。


Caravaggio - Derek Jarman


カラヴァッジョ
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/caravaggio.html

二十一世紀。「映像の世紀」の次世紀のはじまり?
いや、小林秀雄が書いた「近代絵画」は、ボードレールではじまりピカソで終わる構成なのだから、寧ろ「現代美術」(「後-近代絵画」ということだが)についての批評と言えるような批評がそのようにしてはじまり、しかし、同時代の趨勢としては「現代美術」的なものがくずおれかけおり、にもかかわらずそんな時点から「ニッポン現代美術がはじまってしまう」という茶番を含めて。
 デレク・ジャーマンのカラヴァッジョではなく、パソリーニ監督・オーソン・ウェルズ出演の「ラ・リコッタ」のマニエリズム絵画の再演の方だと、もっとわかり易いのかもしれないが、YouTube内で絵画の再現の部分が見つからなかった。


Pasolini-La Ricotta(RoGoPaG)