ほとんど外国のものを使っているというのは


 唐物崇拝趣味は現今の茶道の中にも根強くあって、お茶人は「真の台子」を最高の格を持ったお茶だという考え方に固執している。
 昭和三十二年日ソ展をやった時、ソビエトから審査員がやって来た。プーシキン記念国立造型美術博物館長のザモーシキン氏と東方文化博物館極東文化課長のグレハリョーバ女史である。この二人は日本文化を知ろうとすることに大変熱心で、
「日本の茶道というものは伝統のある格式の高いものだそうだが、一度われわれもそれを見せていただけないか」
という話になったので、裏千家に頼みに行った。
 裏千家では国際的な賓客をもてなす茶会だというのでひじょうに緊張して東京の護国寺に席を設けた。
 行ってみたら真の台子の貴人点てが用意されている。ソビエトの審査員たちは、不思議そうな顔をして、
「お茶な日本の伝統的なもので、それに使われている道具類は、日本の工芸の精髄を極めたものだと聞いていたが、ほとんど外国のものを使っているというのはどういうわけですか?」
 と質問してきた。彼らはソビエトでも有数な世界の美術工芸品には詳しい人たちなので下手な言い逃れもならず、また裏千家では最高の礼を尽くしたつもりで一生懸命やっているのだし、実に困ってしまった。
「これはまだ日本が中国の輸入文化に依存していた頃に出来た古い形のお茶で、今日は手違いで、こういうものをお目にかけるようになってしまったが、日本の器物だけでやれる本当のお茶があるから、それはまたもう一度ご案内します」
 と言ってその時は済ましたが、(・・・・・・・・・・・・)

加藤唐九郎「かまぐれ往来」新潮社 ISBN:4103524014