世界は山田家の食事時のようにある




黒い罠 [DVD]

黒い罠 [DVD]

 オーソン・ウェルズ監督「黒い罠ASIN:B000G7PS2M
 感涙!
 どんな現場だったんだ、一体??? 大体、あの動き回るカメラとせかせかと追い立てるような撮影のリズムの中、オーソン・ウェルズはどこに居たんだろう? カメラから遠く離れてデンと座わりアシスタントを通じて、スタッフにあれやれこれやれの指示? いや、オーソン・ウェルズってかなり落ち着きなくちょこまかイライラ神経質な人そうだから、あの巨体で邪魔がられながら、しゃがれ声でしゃべくり続けダメ出しし続け、スタッフの間を動き回って、指示を徹底させてたんじゃないか、と・・・・。 と、なると、撮影クルーとともにクレーンに同乗していたんだろうか? 可能なのか? あの過剰な身体で?
 

 オーソン・ウェルズの映画って、神経を逆撫でする感じで、音楽と会話が介入してくる。音楽は、眠りを妨げ神経を苛立たせる騒音として響き、会話は、詰問と(ヒステリックな)叫びとして響く。観てるだけでイライラ感が募り、まともな判断を奪われて神経がぴりぴりしてくる。

 
 個人的には、「家庭」を思い出す。僕が育った「山田家」を。山田家の食事時を。
 食事時、母親が怒声ともつかない金切り声を上げ、食器がひっくり返り、食べ物が飛び散り、テーブル掛けがずるずると下がり・・・・。意味ない騒動だから、巻き込まれたくない者は気配を消し、異変を感じた猫は身を屈める・・・。しかし気配を消したと言って母親はさらに逆上し、金切り声はオクターブを上げ・・・。
「なつかしい我が家」なのかもしれん。帰りたくない我が家ではあるが。



 オーソン・ウェルズの家庭もそんなだったのかも。
市民ケーンASIN:B000LZ6DW8 の才能を欠いた歌手である妻が「なに?! 何て言ったの?!」と叫び続ける家庭。
偉大なるアンバーソン家の人々ASIN:B00008OK1V の体裁ばって無知蒙昧な老叔母の些末な執着が青年の未来を握りつぶそうとする家庭。
ストレンジャーASIN:B00005G12Y の陰謀術数うごめく妻の実家から送り込まれた家政婦によって監視介入される家庭。
 





「世界は山田家の食事時のようにある」。
オーソン・ウェルズの教えだ。間違っていることを祈りたい。