負けないこと

 私は、あなたがダメな人間なのかどうか知らない。どれだけ努力してきたかも知らない。しかしどんな人であろうとも、「生活困窮状態」に放置されるべきではない。どんな人間であろうとも、生きているだけであなたにはそれだけの価値がある。それが「人権」ということだ。
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(・・・)聞こえてくる肉声やメディアを通じて流れてくる声は、そんなことばかり言っている。強い者が勝ち、弱い者が負ける。これが社会だ。弱ければ強くなれ、ただし自分ひとりだけの力で、と。 
 強くなろう。私もそう思う。ただし必要なら、さまざまな人の力を借りて、制度を活用して強くなろう。「勝つ」のではなく、「負けない」ために。勝とうとするから負ける。運よく勝てば、またぞろ負けた者を見下すようになる。勝たなくていい。必要なことは「負けない」ことではないか。
 「オルタナティブ」という言葉があるが、それは結局、「負けない」ことだろう。まったく別の世界で生きることはできない。「この世界」で生きるしかない。「この世界」に生きつつ、この世界に翻弄されないこと。それが本当に必要な「強さ」ではないか。

湯浅誠「本当に困った人のための生活保護申請マニュアル」同文館出版
ISBN:4495568612