葉巻とパイプ

船長はズボンの大きなポケットをさぐって青いハンカチ、何かはいっている麻の袋、タバコ入れ、ナイフ、磁石そして札束を取り出した。
「誰かにビールを買って来てほしいんですが。わたしをこの船室に案内してくれたあのボーイさんでもいいだが」
バンディ氏はベルを鳴らした。
「まかしといてください、船長さん。それまで、葉巻でもひとつどうです―――」
船長は赤と金の帯のついている葉巻を一本手にとると、匂いをかいでみた。
「ロンボクのタバコですな。あそこはインチキ野郎の巣でね。しようのない所ですよ」
こう言いながら船長は、ボンディ氏がぎょっとしているまに、高価な葉巻をでかい手でもみくちゃにすると、そいつをパイプに詰めた。
「そう、ロンボクか、スンバかだ」
そうこうしているうちに、ドアのところにボヴォドラ氏が音もなく現れた。
「ビールを持って来たまえ」ボンディ氏が命じた。
ボヴォンドラ氏は眉をあげた。
「ビールでございますね? いかほど?」
「一ガロン」船長はうなるように言うと、まだ火のついているマッチを絨毯に踏みつけた。

カレル・チャペック山椒魚戦争」1936)