風呂嫌い


みなさんのところの患者さんはお風呂でリラックスしますか。緊張が続いている人は、患者であろうとなかろうと風呂が嫌いな人がけっこう多いです。いちばん典型的なのは、病人とはいえないですけれども他ならぬ昭和天皇です。風邪をひいて二週間風呂に入らなくていいと言われたときはとても喜んだそうです。戦争前から戦争中にかけてですから、たいへんな緊張状態にあったのでしょう。独り言もひどかったそうです。戦前ですとこんなことを言ったら大変ですが、さすがにいまはそんなことはないでしょう。
中井久夫「こんなとき私はどうしてきたか」ISBN:4260004573


そういえば、実母は、ものすごい風呂嫌い。
名古屋栄の家は、風呂が使えなくしてある。今住んでる長野県茅野市の家の風呂場も水道が止めてあった。
垢で真っ黒に汚れた顔をして、腕とか垢がこびりついて干涸びたような肌で、洗髪していなくてごてごてばさばさの白髪をしている。昔からチックは酷く、常に左頬をひくひく引きつらせている。容姿を言葉で描写しただけで、あからさまに「狂人」っぽい。
それが実母だ。


彼女が今居住している長野県茅野市の家も、あからさまに気持ち悪い。
嘗ては普通の建て売りの別荘だったのだが、近年改築を施され、玄関がなくなり、台所がなくなっている。出入りは、裏口かベランダからし、料理は洗面所でしているようだ。いや、料理は基本していないのかもしれない。サトウのごはんが大量に買い置きしてあった。
外からの侵入を畏れているらしく、裏口にふたつ鍵がついており、洗面所からリビングへ入る室内の扉に鍵がついている。基本建て売りの別荘なので、開口部が多く、ベランダも二部屋ある和室も一面のガラス戸ガラス窓なのだが、そちらは別にいいらしい。改造しないままの貧弱な鍵がついているだけだった。裏口からリヴィングへと侵入されることを警戒しているのだろうか?
家具の配置は、行くたびにかわる。これまた昔からそうだ。強迫的に家具を移動しつづけている。僕が知る限りずっと。
炊事が極度に苦手らしく、食事の準備の時にはよく金切り声の悲鳴をあげていた。「アーッ!」とかそんな金切り声。近年も変らないようだ。