醜さになにか貴族的なものがある

実際、リュクサンブール公爵夫人とか、モリヤンヴァル夫人、サン=トゥーヴェルト夫人、そのほか多くの婦人たちの場合、その顔を見分けさせるのは、兎唇に大きな赤い鼻がついているとか、うっすらとひげの生えた皺だらけの頬をしている、といったものだった。もっとも、こういった特徴だけでも人びとの心をとらえるには充分だったのである。というのも、そうした特徴は文字と同じく約束事にすぎなかったので、一つの名前をそこに読ませることになり、その名前が畏怖の念を起こさせたからだ。だがまた同時にそのような顔立ちは、醜さになにか貴族的なものがあるという観念を与える結果になったし、上流婦人の顔は、気品がありさえすれば、美しかろうが美しくなかろうがかまわない、という観念を与えたのである。

プルースト失われた時を求めて」/第三幕「ゲルマントの方へ」)
ISBN:4081440050