みんな、なに食べてたんだろ?


岩村暢子「家族の勝手でしょ!」が相変わらず気になる。
このところ、気になり出したのは、「20世紀、主婦はそうそうきっちり毎食食事を作っていたのか?」ってこと。
岩村暢子の調査は、20世紀の終わり頃、「最近、主婦の作る食事に変化が生じたのでは?」って辺りで開始されている。「20世紀中盤の主婦はそうはしなかった」と措定されているモデルは、岩村暢子の記憶の中にしかない。
僕の実家の食事は、「家族の..」で書かれたようなものではなかった。昭和3年生れで「女学校」出身の実母は、インスタント食品や惣菜ものを食卓に並べることを忌み嫌っていたから(同時に、洗い物も鬼のように敵視していたが)。でも、よその家のことは知らない。

本当のところどうだったのだろう?
1) 70年代、友人の商家(と言って名古屋の呉服町の卸問屋だから中流以上の家庭であったことは間違いない)では、「店が忙しい時は、夕食は近所の吉野家で牛丼食って済ます」話を聴いた。
2) 夕食に「マルシンハンバーグ」や「ボンカレー」が出て来た話も普通に聴いた(羨ましかったんだが)。
3) 落語に登場する職人たちの一般家庭は、漬け物か佃煮にメシしか食卓に出て来ない。他には豆腐とオカラくらい?
4) ビートたけしが語る北野家の食卓では、連日、惣菜物のコロッケだけが並んでいたりしている。(「またコロッケ?」と不満を口にした途端に、「じゃあ食べなくていい」と下げられた話をどこかでしていた。)
5) 桂米朝は、昔の商人の家で、「奉公人の食事に味噌汁が付く」などというのはよっぽどのご大家で、通常は三度三度、「漬け物と飯」だった、と枕で語っていた。
6) 初期のボンカレーのCMも、新婚家庭でレトルトカレーが食卓に上る様子が普通に出て来ている。もっとも、当時のCMのリアリズムとしての信憑性は、かぎりなく低そうだ。大塚製薬オロナミンCの宣伝では「ぼくは卵を入れてオロナミンセーキ」「オロナミンCでウィスキーやるか?」とか.....。いくらなんでも、そんな「お宅」はなかったと思うんだけどねえ。しかし、「本当にあったかどうか」は置いておくにしろ、「夫婦の食事をレトルトカレーだけで済ます」というライフ・スタイルが、受け入れられていたことは確かだろう。
7) 「一般的な家庭とは言いがたいのだろうが」と保留を付けつつ、実家の話を書くなら、味噌汁は殆ど出なかった。実母が味噌汁(名古屋なので八丁味噌)の匂いが家につくのを嫌ったから。たまに出てもものすごく不味かった。不味かった理由は、実母がダシをとることを億劫がって省略していたから。そりゃ不味い。「料理にダシは使わない」方針だったようだ。従って、全体的に料理は不味かった。よく「おふくろの味が懐かしい」とかあるが、そういうことはない。不味かったから。ともあれ、20世紀中盤のプチブルインテリゲンチャ家庭でも主婦が作る食事に「味噌汁がない」ことはあった。もっとも、実母は、相当な変人なので、「味噌汁がないことがが一般的だった」とも思えないが。



で、どうなの?
1)「21世紀末、主婦の作る食事は激変した」のか、2)「20世紀終盤に起きた突出的好況期(黄金の80年代!)にだけ、例外的に、各家庭で毎食手づくり料理が作られていた」のか?



家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇

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